AIで100時間削減した。その100時間は何になるのか、何に使うべきなのか
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生成AIの導入効果は、「月100時間削減」「資料作成の時間が半分になった」といった数字で語られがちです。効果の大きさは分かりやすいでしょう。ただ、その先に何が生まれたのかは、あまり語られていないように感じます。浮いた100時間は、会社にとって何になったのでしょうか。
年間で1,000時間、特定の作業を減らしたとします。社員の時間単価を3,000円とすれば、「300万円分の効果」と計算できます。しかし、同じ社員に同じ給与を払い続けるのであれば、会社の支出が300万円減ったわけではありません。会社が得たのは300万円ではなく、別のことに使える1,000時間の余力です。
AIで何を速くできるかだけでなく、その時間を何に使うのかまで考えて、初めて導入効果を捉えられます。
浮いた時間の価値は、使い道で変わる
まず、もともと過度な残業が常態化していたなら、AIによって定時に帰れるようになったこと自体が成果です。せっかく仕事が速くなったのに、その時間をすぐ別の仕事で埋めてしまえば、社員から見れば単に仕事の密度が上がっただけです。効率化はしていても、働き方は楽になりません。無理な働き方を解消し、急な依頼にも対応できる余白を取り戻す。これも、浮いた時間の明確な使い道です。
一方でもともと定時内で終わっていた仕事が20%速くなった場合は、それだけでは売上も利益も増えません。社員一人の仕事が20%速くなっても、その人の給与を20%減らすことはできません。会社も人を0.2人分だけ減らすことはできません。この場合、速くなったことで生まれた時間を、別の仕事や顧客対応に振り向けて初めて、会社としての価値が生まれます。
残業の解消に使うのか、既存の仕事を増やすのか、新しい取り組みに使うのか。同じ100時間でも、その行き先によって価値は変わります。
中小企業では、時間が細切れのまま残りやすい
大企業では、効率化によって創出された時間を別の仕事へ移す選択肢を比較的持ちやすいと考えられます。デロイト トーマツの2025年調査では、売上1,000億円以上のプライム上場企業の39.3%が、生成AIの登場を受けて人の配置を変えていると答えています。もちろん、大企業でも配置転換は簡単ではありません。仕事に必要な経験や勤務地が合わなければ、そのまま人を移せるわけではありませんし、本人との話し合いも必要です。それでも、複数の部署や職種を抱える企業ほど、浮いた時間を別の仕事へまとめて移す選択肢は持ちやすくなります。
中小企業では、この問題がより難しくなります。
経理で月20時間、営業で月20時間の仕事が減ったとしても、それを足したからといって、月40時間の別の仕事を任せられる一人が生まれるわけではありません。経理と営業では必要な経験も仕事の内容も違います。さらに、一人あたり毎日20分ずつ速くなったとしても、その20分が社員ごとに散らばったままでは、新しい仕事にまとまった時間を使うのは難しくなります。だからこそ、中小企業では、個人ごとの時短だけでなく、チームや業務全体の流れを見る必要があります。受注してから見積を返すまでをまとめて速くする。請求処理を一連の業務として短縮する。
個人に少しずつ余白をつくるのではなく、チームとして半日、あるいは一日まとまった時間を使える状態をつくることが重要です。AIによる効率化を組織の成果につなげるには、この「時間をまとめる」という視点が欠かせません。
浮いた時間は、今困っていることの近くで使う
まとめて生まれた時間を何に使うかを考えるとき、最初に見るべきなのは、すでに目の前にある困りごとです。忙しすぎるなら余白を取り戻す。依頼は来ているのに断っている仕事があるなら、それを引き受ける。問い合わせへの対応が遅れているなら、返事を早くする。いきなり新規事業を考えるより、すでに存在している需要に応える方が、売上につながる道筋は短くなります。
歯科医院向けのホームページを制作する有限会社イヴニングスターは、代表を含む3人で仕事を見直し、年間約252時間を創出しました。その時間を使って、以前は忙しくて断っていた既存顧客のホームページ刷新を引き受け、増員せずに売上高を約30%伸ばしています。
中小機構の取材記事で紹介されているのは生成AIではなくDXの事例ですが、「浮いた時間を何へ振り向けるか」という点では、AI導入にもそのまま当てはまります。重要なのは、252時間削減したことだけではありません。その時間を、すでに存在していた需要へつなげたことです。
製造業や小売業のように、商品や製品の販売が中心となる会社では、「浮いた時間で高付加価値業務を」と言われても、何をすればよいのか分からないこともあります。今まで断っていた小口の仕事を受ける、問い合わせへの返事を早くする、既存顧客へのフォローを増やすといった改善でも十分です。ECなどを活用して販売経路を増やしたり、いまある商品やサービスを少し買いやすくしたりする方法もあります。
AIで浮いた時間を必ずしも新規事業や高度な仕事に回す必要はありません。まずは、今困っていることや、すでにある需要の近くで使う方が、成果とのつながりも見えやすくなります。
採用したくても人が集まらない会社なら、今いる人で仕事を回し続けるために時間を使う方法もあります。2025年版小規模企業白書では、人手不足と答え、直近3年間に採用した小規模事業者のうち、約6割が予定していた人数を採用できませんでした。AIは、人を減らすための道具だけではありません。人を増やせないときでも、今いる人で会社を回し続けるための道具にもなります。
新規事業への時間投下は、そのさらに先でよいでしょう。新しいことを始めるには学ぶ時間も必要ですし、すぐ売上につながるとも限りません。中小企業では、まず目の前の困りごとと既存の需要へ時間を使う。その順番の方が自然です。
使い道から逆算して、AIを入れる業務を決める
AIを「まずは各自で使ってみよう」から始めると、メール作成が数分速くなる、資料を探す時間が少し減る、といった個人単位の改善が増えていきます。もちろん、それ自体は悪いことではありません。ただ、一人ひとりに数分、数十分ずつ時間が散らばったままでは、会社として別の取り組みに使えるまとまった時間にはなりにくいものです。
そこで、先に創出した時間を何に使うのかを決めます。これまで断っていた仕事をもう少し引き受けたいのであれば、そのために必要な時間をどこから作るのかを考えます。見積の返信を早くしたいのであれば、文章を書く部分だけをAI化するのではなく、問い合わせを受けてから金額を決め、見積書を作り、返信するまでを一つの業務として見直します。使い道が決まっているからこそ、どこからどこまでを改善すべきかも見えてきます。
逆に、時間の行き先を決めないままAI研修やツール導入だけを進めると、改善は個人の手元で止まりやすくなります。使い道を先に決めるのは、AIの活用方法を狭めるためではありません。個人の時短を、組織として使える時間へ変えるためです。
削減時間ではなく、その先の変化を見る
使い道を決めると、見るべき数字も変わります。
見積を早く返して、これまで取りこぼしていた案件を受けたいのであれば、AIで何時間削減できたかだけを追う必要はありません。見積の回答までにかかる時間が短くなったか。以前より多くの案件に対応できるようになったか。受注件数が増えたか。見るべきなのは、本来実現したかった変化です。
忙しさを和らげることが目的なら、残業時間や休日出勤が減ったかを見る。採用難を補うためなら、同じ人数で無理なく仕事を回せる状態になったかを見る。削減時間は重要な指標ですが、それ自体は途中経過です。
100時間削減した結果、何が変わったのか。そこまで見て初めて、AI導入の効果を評価できます。
まずは、一つの仕事で試してみる
全社で一斉に始める必要はありません。
見積作成や受注処理、請求処理のように、前後の流れをまとめて見られる仕事を一つ選び、その仕事が速くなった後に何を変えたいのかを決めてから始めます。見積作成を対象にするなら、単に作成時間を半分にすることを目標にするのではなく、これまで翌日になっていた返信を当日中に返せる状態を目指す方が、何のための効率化なのかが明確になります。月末処理を見直すのであれば、削減時間だけでなく、残業が減ったか、急な依頼に対応できる余裕が生まれたかまで確認します。
実際に試し、その結果を見ながら手順や対象範囲を少しずつ直していけば十分です。小さく始めるのであれば、専門部署がなくても、経営者と実際にその仕事をしている人で進められます。
AIで何時間減らせるかは、もちろん大切です。ただ、その時間が会社にとってどんな価値になるのかは、減らした時間そのものでは決まりません。その時間を何に使ったのかで決まります。AI導入では、「何を速くするか」と同じくらい、「速くなった後に何をするのか」を先に考える必要があります。
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Resonal編集部
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