AIでExcelはなくなるのか。DXでも消えなかった理由から考える
・ 読了 約7分

先日、日本経済新聞でマツダのデータ管理改革について報じられました。内容としては、車両開発の一部で米PTCの「Codebeamer」を本格導入し、『エクセル』中心の管理から脱したことです。記事では、情報の整理や検索に使う時間が開発業務の約6割を占めるとも紹介されています。
マツダ、車両開発で「脱・エクセル」 データ一元管理でAI活用に布石
こうしたニュースを見ると、Excelで行われている業務はいずれ専用システムやAIに置き換えられ、Excelそのものも使われなくなっていくように感じます。実際、AIは表の内容を理解したり複数のファイルをまとめたり、データを別の形式へ変換したりできるようになっています。今後さらに性能が上がれば、人がExcelを開いて行っている作業のかなりの部分が自動化される可能性は高いでしょう。
ただ、そこから「Excelでの業務がなくなる」と考えるのは少し飛躍があります。
Excelは生成AI以前から置き換えの対象でした
そもそもExcelを使った業務をシステム化するための技術は、AIが登場する以前から数多く存在しています。基幹システムやクラウド型の業務ソフト、業務を自動化するRPA、画面上で手軽にアプリを作れるノーコードツール、データを可視化するBIツールなどがその代表です。ここ10年ほどはDXという言葉も定着し、紙やExcelで管理している業務をシステムへ移す取り組みが多くの企業で行われてきました。しかし、それでもExcelは残っているのが現状であり、弊社がご支援している中でもExcelやスプレッドシートは必ずといっていいほど何かに使われています。
もちろん、以前はExcelで管理していたものを専用システムへ移した企業や業務は多数あります。しかし、Excelを中心とした業務がほとんどなくなったかというとそうでもありません。もしExcelから専用システムへの移行がそれほど簡単なのであれば、これだけ長くDXが進められてきた時点で、企業内のExcelは今よりかなり少なくなっていてもおかしくありません。
Excelが残る理由の一つは単純で、便利だからです。新しい項目が必要なら列を増やせますし、計算が必要ならその場で数式を書けます。数人で使うような手元の管理表であれば、要件を整理してシステムを開発したり新しいソフトを契約したりするより、Excelを1枚作った方が圧倒的に早い場合もあります。データベースのようにSQLのような言語を用いてデータの操作をする必要もありません。
加えて、人や組織は慣れ親しんだ仕事のやり方を簡単には変えません。人間には今の状態を維持しようとする心理的な傾向があり、業務の進め方にも同じような慣性があります。新しいシステムを導入するには、入力項目を整理し、過去のデータを移し替え、使う人に新しい操作方法を覚えてもらわなければなりません。場合によっては社内の承認ルートや取引先とのやり取りまで変える必要があります。
長期的には新しい仕組みの方が効率的だとしても、現場の移行コストを考えると既存のExcelを使い続けた方がその時点では合理的なこともあります。「技術的に置き換えられる」ことと「現場で実際に置き換わる」ことは別の話です。
DXやAIのニュースだけでは企業全体の姿はわかりません
もう一つ考慮したいのが、多くの人が外から見ている企業のDXやAI活用は、基本的に発表された部分だということです。
企業のプレスリリースや導入事例では、新しく始めた取り組みや成果が出たプロジェクトが紹介されます。「データを一元化」「AIを導入」「業務を自動化」といった発表を続けて見ていると、企業の業務全体が急速に置き換わっているように感じることがあります。
しかし、大企業には営業、経理、調達、製造、法務、人事など非常に多くの業務があります。ある部門の一つの業務でAIを導入したからといって、企業全体が同じ状態になっているとは限りません。最新のAIシステムを使っている部署がある一方で、別の業務では古い基幹システムやExcel、CSV、PDF、手作業が残っていることも十分考えられます。
これは企業が実態以上の発表をしているという意味ではありません。プレスリリースや導入事例はそもそも特定の取り組みについて紹介するものなので、そこから企業全体のデジタル化やAI活用の程度まで判断することはできないという話です。
AIについては特にこの点に注意が必要です。一部業務への試験導入や小規模な検証であっても「AIを活用」と表現できます。その裏側に人による確認作業やExcelでの管理、既存システムへの入力が残っていることも十分考えられます。外から見えるAI導入の件数と、企業の業務全体がAIによって置き換わっている度合いは同じではありません。
そのため、DXやAIのニュースが増えていることだけを根拠に「企業のExcel業務は急速になくなっている」と判断するのは難しいでしょう。新しい技術の導入と、既存業務全体の置き換えにはかなりの時間差があります。
AIがExcelを残しやすくする可能性もあります
AIには、逆にExcelを残しやすくする作用もありそうです。
これまで問題になっていたのは、Excelそのものより、その周辺で人が行っている作業であることも少なくありません。取引先から届いたExcelを自社のフォーマットへ転記したり、PDFを見ながらExcelへ入力したり、複数のファイルをまとめたり、Excelの内容を業務システムへ登録したりする作業です。
AIがこうした処理を自動で行えるのであれば、現場が使っているExcelまで無理に廃止しなくてもよくなります。人はこれまで通りExcelへ入力し、その後のデータ抽出や変換、突き合わせ、システム登録をAIに任せるという構成も可能です。
これは少し逆説的です。AIはExcelを置き換える技術であると同時に、Excelを残したままでも業務を効率化できる技術でもあります。人間が手作業でExcelを操作する時間は減っても、手元で情報を入力したり確認したりする道具としてのExcelは残る。そういう未来も十分考えられます。
とはいえ、何でもExcelでよいわけではありません
開発者やプロジェクトマネージャーの方の中には、Excel方眼紙で作られたWBSや仕様書の作成・更新に苦労した経験がある方も多いのではないでしょうか。弊社でも、こうした用途についてはExcelにこだわるより、専用のプロジェクト管理サービスやドキュメント管理ツールを使ってほしいと感じる場面が少なくありません。
Excelが残ることと、企業のあらゆる業務やデータをExcelで管理してよいことは別です。特に、商品やサービスの競争力そのものに関係する領域をExcelに強く依存するのは避けた方がよいでしょう。重要な商品の一覧データ、価格決定のルール、製品の設計情報、顧客向けサービスの中核となるデータなどです。
こうした領域では、誰が変更できるのか、いつ誰が数値を直したのか、どれが最新版なのかを正確に管理する必要があります。扱うデータ量や関わる人数が増えれば、閲覧権限の設定、変更履歴の追跡、複数人での同時更新、バックアップ、他システムとの連携なども重要になります。
小さな管理表ではExcelの柔軟性がメリットになりますが、事業の中心になるほど、その自由度が管理上のリスクになります。重要度が高く、長期的に使われ、多くの人やシステムから参照されるデータであれば、表計算ソフトではなくデータベースや専用システムで管理する方が適しているはずです。
AIの普及によって、人間が手を動かしてきた転記、集計、整形といった作業はかなり減っていくでしょう。一方で、Excel自体が短期間ですべて置き換えられるとは考えにくいです。DXが長く進められてきた現在でもExcelが残っていることを考えると、AIによる変化も「Excelが消える」というより、Excelに任せる仕事の範囲が変わっていくと見る方が現実に近いと思います。
今後重要になるのは、Excelを使うか使わないかという二者択一ではなく、どのデータならExcelで十分で、どこから先はシステムとして厳密に管理すべきなのかを見極めることではないでしょうか。
AI導入・業務自動化のご相談
弊社では、AI導入や業務自動化の支援を行っています。また、Excel・CSV・PDFなどを使ったデータ加工や転記、集計業務を自動化する「Subel」を開発しています。
業務量の増加に伴って人手作業が増えている、特定の担当者に依存している業務を見直したいといった企業さまは、お気軽にご相談ください。

Resonal編集部
Google Cloudや生成AIの導入、プロダクト開発における役立つコンテンツをお届けします。


